お芝居つれづれときどき音楽

歌舞伎のこと、音楽のこと、いろんなこと、気の向くままによしなしごとを。

2017年9月秀山祭夜の部@歌舞伎座

秀山祭夜の部の感想。盛りだくさんの一夜でした。

逆櫓(ひらかな盛衰記)

悲しみを押し隠すように、孫の形見を捨てておけと一度は言う権四郎、驚くお筆に止める樋口、侍が我が子のことで未練があっては笑われないかと問う権四郎、誰が笑うものかと答える樋口、大泣きに泣く権四郎と一同。吉右衛門さんの樋口だけではなく、歌六さんの舅権四郎、雀右衛門さんの妻お筆、仮初なれど家族皆が一同に哀しみ、喜び、やはり悲しむという複雑に入り組んだ感情があの場面に色濃く漂っていて素晴らしかった。ベテラン揃いだから生まれる雰囲気なのかもしれません。

後半、樋口と敵方大勢との立回り場面は、碇知盛の元ネタなのだとか。確かに碇が豪快に出てきていました。

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若君を助けたい樋口の気持ちを汲んで「前の夫の子」と偽る権四郎、真実を分かっていて恩情をかける左團次さんの畠山重忠、恩情に報いんと切腹しようとする樋口、それを止める重忠、縄かけられて若君と主従の別れをする場面、若君の「樋口、さらば」の一言の重み。時代物、少しずつ好きになっているかもしれません。

再桜遇清水

さて問題話題の染五郎さん大活躍劇。ネタバレありで行きますので未見の方は見てからで。絶対ネタバレ見ないで見た方が楽しいです、いろいろ衝撃的なので!

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まだ名前の通り清らかなる清玄様な染五郎さん(ポスター右)、穢れてない様が美しいです。逢引の相手に仕立てられて驚くところも可愛く(個人の偏った感想)、二人を助けるため、と仕方なく逢引相手の振りをするたどたどしさも、そして鳩の生き血を…止む無く呑むところ。ここ、結構衝撃的だと思うのです。今の世ではお坊様も肉や魚、お酒も召し上がるけれど(宗派によって違うのかな?)、舞台は戒律を守ることが当然という時代設定、戒律に厳しい高僧が、他人を助けるためとはいえ禁忌を犯す恐ろしさがあります。ただ、信仰のない人間が言うのも変ですが、宗教の色が生活からすっかり薄れ、禁忌という感覚も廃れて、この驚きが少なくなってしまっているのかな、と会場の反応を見て思いました。

浪平(ポスター左)と清玄の早変わり、気づくとほぼ常に舞台に出ているような染五郎さん。高僧からがらっと粋な奴さんに変わるのが目に楽しいです。

他にも染五郎さんのいろんな拵えが見れて大変幸せ。これ写真入り筋書き買いそうな案件です(節制とは…)。

清玄のときだったか、本当に美しい声で喉に負担も少なさそうで、この声たくさん聴きたいなぁと。立役の歌舞伎役者さんはけっこう喉を詰めた感じの声を出しなさる(あれが歌舞伎らしさなのかな?)気がするのですが、喉に負担をかけない響きのある声だなと思うのは海老蔵さん。あの出し方がOKなら、もっと詰めない声で他の方もやられないのかなあと。その方が声が長持ちするのではと。

前半の清玄さまの衝撃は桜姫との口移し…袖に隠していましたが(髑髏城と違ってほんとには当たってないよ!と思う脳はおかしい)。これ、もし相手役が雀右衛門さんじゃなくて七之助さんだったら脳がスパークしてたなと妄想。

一幕の引っ込み。蝋燭に照らされて花道を去る染五郎さんの浮き上がる色気。僧侶の面影などないほどに。揺らめく炎が印象的、本火って演出上ものすごく効果的なんだなあ。去っていくときに蝋燭も八の字を描きながら動かしているなあと小さな発見。

後半、粋な浪平さん炸裂。敵方に大金積まれて寝返り、妻と舅に縄をかけて悪ぶる、その悪い感じの格好良さが半端ない。寝返ると見せかけて敵をばさーっと切るところも、絶対「寝返る振りの計略」だって信じてたけど、やっぱ格好いいんです。

殺しの場面の衝撃。新清水と聞いてぎらりと光る目、表情にぞっとします。そこまで堕ちてしまうのか…。福岡貢のときの刀に操られた殺しとはまったく違う恐ろしさ。

総括すると、いろんな染五郎さん見せちゃうよ祭りでした。この演目。

もちろん、お小姓の米吉さんと児太郎さん可愛かったなとか、きよはるの方の清玄錦之助さんも高貴な雰囲気でカッコいいなとかあるのですが、ほとんどの場面に浪平か清玄やってる染五郎さんが出てるんですもん。そりゃ持ってかれますわー。

はい、たいへん幸せだったので幕見しそうです。

こんなこと言ってた舌の根乾かぬうちにね、追加しちゃったしね(節制とは…)。