お芝居つれづれときどき音楽

歌舞伎のこと、音楽のこと、いろんなこと、気の向くままによしなしごとを。

絵本合法衢 一世一代の千穐楽

f:id:andantepresto:20180427201243j:image

4月千穐楽の夜の部。開演前から、最後だ、今日で終わってしまう、と緊張と動悸がしながら見始めましたが、一幕目の後半にはもう、いつものように舞台に引き込まれていました。大詰、閻魔様のシーンの幕が開いて、いよいよ終わってしまう現実を思い出して切なさでいっぱいに。頭上で合法の刀を受ける大好きな型も最後かとか、目を閉じて刀を両手で頭上にやって目を開く見得の格好良さとか、終わらないでと祈るような気持ちで食い入るように見ました。

大学様が刀を受け、もがき、とうとう倒れ、弥十郎と皐月に止めを刺される。あぁ終わってしまった。万雷の拍手の中で起き上がる仁左衛門さん。この演目に拍手を送れるのも最後。切り口上の「まず今日はこれ切り~」をこの演目で聞くのも最後。「今日は」と仰るけれどもう仁左衛門さんの絵本合法衢は二度と見られないのだと切なくなりながら、拍手を送り続けました。終わってほしくない、この時間と空間が。そう思い幕が閉じても拍手を送っていました。

正直、幕が再び開きはしないだろうと思っていました。もしかして、という気持ちもわずかにありましたが、仁左衛門さんがカーテンコールを好まないことを本や記事で読んだり、色々なお話を聞いていたので、ほぼないだろうな、と。それでも拍手をし続けていたかったのです。拍手を止めて劇場を出てしまったら本当に舞台の夢から覚めてしまう。夢から覚める時間を少しでも先に延ばしていたかった。終演後、急いで帰られた方々(遠征組の方もいらしたかも)以外は大多数の方が劇場に残って拍手を続けていたように思います。直後の終演アナウンスは拍手にかき消され、拍手のボリュームがずっと収まらずに、こうしてたくさんのお客様と一緒に拍手を送り続けられるしあわせと、終わってしまった切なさに浸っていました。帰りなさいという雰囲気になるまでは1秒でも長くそうしていたいと思っていました。

どれくらい拍手を送っていたでしょうか、孝太郎さんブログによると終演後5分ほどということでしたが、ゆっくりと幕が開き始めて客席からどよめきが。それでも油地獄の千穐楽の話を聞いていたので舞台上に仁左衛門さんがいないかもしれないと身構えていました。すると、舞台中央やや下手くらいにおひとりで座っていらして。登場してくださった!という喜びのあとに一瞬、カーテンコールを好まない仁左衛門さんはどういう気持ちでそこにおられるのか、間違っても無理に出てくださったりしていないか、と不安になりました。

が、その不安を吹き飛ばす素敵な笑顔、心からの笑顔…!演じ納めの最後の日に、大学之助様の拵えで役者・片岡仁左衛門として観客に向けてくださった笑顔に射抜かれて、しあわせいっぱいに。笑顔で左右に礼をされ、正面に向き直り「ありがとう」と祈るかのように手を合わせられ、最後に深々と礼。そして幕。感激で涙が滲みました。終わってしまう切なさを吹き飛ばすしあわせ。なんて幸福な時間に居合わせられたのでしょうか。すべてに感謝しかありません。ほかほかした気持ちを胸に、しかしそれでも離れがたくて、なるべくゆっくりと劇場をあとにしました。


帰宅して孝太郎さんブログの動画でカーテンコールの記憶を反芻ししあわせを噛みしめながら、その客観的な短さ(45秒くらい)に驚きました。現場にいた体感ではまるで刻がゆっくり流れたかのようにたっぷりと感じました。感激のあまりそう感じたのか、客席と舞台がひとつに結ばれたからなのか。舞台の魔法にかかったようです。
そうこうしていたら彌十郎さんブログにも更新が。切り口上で幕が閉じたあと、いつも通りに3人(仁左衛門さん時蔵さん彌十郎さん)で楽屋に帰り、いつも通りに仁左衛門さんの楽屋に挨拶に行かれ、そのときすでに仁左衛門さんは衣裳を脱がれていた、と。仁左衛門さんはカーテンコールを予定していなかったのですね…!それでも拍手に応えて衣裳を着直してまで舞台に出てくださった。なんてありがたいのでしょう。

孝太郎さんブログ「幕が降りてから五分後?」
https://ameblo.jp/takataro-kataoka/entry-12371426688.html
彌十郎さんブログ「熱いお客様」
https://ameblo.jp/yaju1956/entry-12371479235.html

一世一代の千穐楽に立ち会えた喜びを噛みしめながら、これからも舞台を見続けて参りたいと思います。心から、ありがとうございました。